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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)109号 判決

一 請求の原因一及び二の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決にこれを取り消すべき違法の点が存するかどうかについて検討する。

1 成立について争いのない甲第二号証の一、二によれば、本件意匠は、意匠に係る物品を門扉とし、図面代用写真をもつて別紙図面(一)のとおり(ただし、背面図は正面図と、左側面図は右側面図と、底面図は平面図と、閉じた状態の背面図は閉じた状態の正面図と、閉じた状態の左側面図は閉じた状態の右側面図と、閉じた状態の底面図は閉じた状態の平面図と同一にあらわれる。)特定してなされた出願について登録がなされたものである。これによれば、本件意匠は、パンタグラフ状に一定の限度内で任意の長さに伸縮できる門扉に係る次のような態様を要旨とするものと認めることができる。すなわち、断面角形の細い棒状体をもつて垂直材とし、これを前後に対応させてその幅が垂直材の長さの約一三分の一となるように、前後に各一〇本宛左右方向に等間隔に垂直材を配列し、その前後幅間に相互に交叉した斜架材を配して垂直材と連結して柵状となしたものであつて、斜架材は、垂直材より若干細い断面角形の棒状体で長さが垂直材の約七分の六であり、その上端を二本前後に交叉させて前後一対の垂直材のそれぞれの上端近くの位置にて該垂直材と軸支したうえ、その下端は二本をそれぞれ左右に分かつて、右方(又は左方)に二番目の垂直材の下端寄りの間で、右方(又は左方)に四番目の垂直材の上端から同様に左(又は右)に分かれて至つている斜架材の下端と前後に交叉させて軸支するとともに、これが該二番目の垂直材の前後の間隔内で上下に摺動するよう連結したものである。

原告は、本件意匠の審美的特徴が垂直材を前後に二本対をなすように配置した立体的構成を有する点にある旨主張し、被告はこれを争うので、先ずこの点について判断する。本件意匠に係る門扉は伸縮自在の門扉であるところ、その意匠的特徴は伸長された状態において観察すべきものと認められ、この点は当事者間にも争いがない。しかして、本件意匠に係る門扉は、その態様に照らして、それ自体相当の間口を有する家の外構えに設けた出入口に使用するのが通常であると認められ、購入すべきか否かの決定も、そのように使用した状態を想定して、外部からの来客、外部の通行人の視覚にいかなる印象をもたらすかを考慮してなされるのが通例であると認められる。してみれば、本件意匠に係る門扉は、単にかなり離れた位置から正面を観察した場合に看取される特徴のみならず、該箇所を通つて出入りしようと近接する者、あるいは、該箇所を眺めながら前方を通過する者の視覚にいかなる印象をもたらすかという点も、考慮すべきことは明らかである。右の観点によつて本件意匠の態様をみれば、その構成は前認定のとおりであるから、後方垂直材は特段の注意を払わなくとも自然と看者の目に触れるところであつて、前方垂直材と対をなして立設したものが左右(間口方向)に並列していることを自然と看取して門扉としての奥行方向の厚みを感じさせるとともに、単に前方垂直材の横一列と斜架材との組合せからなる場合の柵状模様に比すれば、観察する角度の違つてくるに応じて後方垂直材の列が異なつた角度から柵状模様に変化をもたらすことが加わり、異なつた審美的効果を奏するものと認めることができる。

したがつて、本件意匠にあつては、前方から看取できる態様で後方垂直材が前方垂直材と対をなして設けられていることが、垂直材が一列のものに比べて、その重要な特徴をなしているものというべきである。

2 そこで、引用公報(成立について争いのない甲第八号証)について検討すると、引用公報に貨車用伸縮扉として図示されているものは別紙図面(二)のとおり(ただし、第二図は第一図のB´―B´´線の、第三図は同A´―A´´線の位置における縦断面図)であつて、そこに本件意匠における後方垂直材に相当するものが示されていないことは明らかである。審決は、引用公報中の「後方の縦枠」なる記載をもつて引用公報記載の伸縮扉においても垂直材(縦枠)が前後に二本配置されているものと認定する根拠としているが、該記載は、「伸縮扉3、4後方の縦枠一端をそれぞれ扉収容室A、Bに固着し」なる説明中にあるものであつて、これをもつて引用公報の伸縮扉においても本件意匠におけるような後方垂直材が配されていると理解することはできず、他にこれを示唆するに足る記載を見出すこともできない。

被告は、前後に垂直材を配した伸縮扉において先行端の垂直材を奥行のある一本の垂直材にすることは普遍化していたものであるとして、これを前提に引用公報の伸縮扉も前後に垂直材を配しているものとみるのが妥当である旨主張する。しかしながら、甲第一二号証の一は本件意匠の登録出願後の昭和四九年一一月二七日の意匠登録出願に係る昭和五三年四月五日発行の意匠公報であり、引用カタログ(成立について争いのない乙第三号証)中にも、被告主張のようなものが普遍化していたことを裏付けるに足る記載は見出すことができず、結局、被告の右主張は前提において失当であつて採用できない。

3 してみれば、引用公報の伸縮扉は、本件意匠における重要な特徴である後方垂直材の配置態様を全く示していないものというほかなく、本件意匠は引用公報に示された貨車用伸縮扉に係る意匠と類似しているとする審決の判断は、当事者の主張するその余の点について判断するまでもなく間違つているものというべきであるから、審決は違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告らの本訴請求は理由があるのでこれを認容する。

〔編註その一〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

第二 原告らの請求の原因

一 特許庁における手続の経緯

原告らは、意匠に係る物品を「門扉」とし、昭和四八年八月一〇日の意匠登録出願に基づいて昭和五三年四月二一日に設定登録された登録第四八三九八三号意匠(以下「本件意匠」という。)の意匠権を共有するものであるところ、被告は、昭和五三年一一月二五日、本件意匠の登録を無効とすることについて審判を請求し、特許庁昭和五三年審判第一六五六七号事件として審理された結果、昭和五七年三月三一日、本件意匠の登録を無効とする旨の審決があり、その謄本は、同年四月二六日、原告らに送達された。

二 審決理由の要旨

1 本件意匠の出願日及び登録日はいずれも前項記載のとおりであり、その意匠の要旨は、物品「門扉」の次のような態様のものである。

基本的構成は、棒状体の垂直材と斜架材を連結して柵状とし、これらは一定の幅を限度として任意の長さに伸縮できるようにしたものである。

その具体的態様は、垂直材を左右方向へ等間隔に並列し、これらはその高さの中央部においてX字状、上下端部でV字状に斜架材の交点で軸着状に止められ、この斜架材を介して左右に連結されたものである。

これらの仔細な表現態様についてみると、棒状体は断面角形で、垂直材は各配置された部位で前後に幅をもたせるように各二本宛左右方向に計一〇本配し、斜架材はその内側で相互に交叉状に組み合わされており、いわゆるパンタグラフ状としている。

これらを柵状の態様として観察すると、ほぼ横に連続した縦長の菱形状と、横三角形を要素として、全体として主に複合した縦長菱形状の態様など、その構成部材の組合わせの範囲内で種々の態様が認められ、これがその開閉にしたがつて広、狭と連続的に変化する。

扉としての開閉方式は、一枚扉の形式である。

2 これに対し、昭和三六年一月一三日の公告に係る実公昭三六―四〇五号実用新案出願公告公報(以下「引用公報」という。)には、「貨車用伸縮扉(本体)」についての意匠(以下「引用意匠」という。)が示されており、その要旨は次のようなものである。

基本的構成は、棒状体の垂直材と斜架材を連結して柵状とし、これらは一定の幅を限度として任意の長さに伸縮できるようにしたものである。

その具体的態様は、垂直材を左右方向へ等間隔に並列し、これらはその高さの中心部においてX字状、上下端部でV字状に斜架材の交点で軸着状に止められ、この斜架材を介して左右に連結されたものである。

これらの仔細な表現態様についてみると、棒状体は断面角形で、垂直材(「縦枠」として引用公報中に説明されているもの)は各配置された部位で前後にやや幅をもたせるように二本宛(引用公報中の縦枠に関しての「後方の縦枠」との記載等から推認)左右方向に計五本配し、斜架材はその内側で相互に交叉状に組み合わされており、いわゆるパンタグラフ状としている。

これらを柵状の態様として観察すると、ほぼ横に連続した縦長の菱形状と、横三角形を要素として、全体として主に複合した縦長の菱形状の態様など、その構成部材の組合わせの範囲内において種々の態様が認められ、これらがその開閉にしたがつて広、狭と連続的に変化する。

扉としての開閉方式は、両開き扉の形式で、中央の垂直材は二本密接し、また、これらの上端には滑車が収納されるべき小さな凹部を設けている。

3 本件意匠と引用意匠とを比較すると、意匠に係る物品において、ともに扉としての機能及び用い方に共通点を有するが、その使用箇所において、前者は家の外構えに設けた出入口に、後者は貨車の出入口に使用されるものである点で異なる。そして、態様につき、基本的構成及び具体的態様のほか、仔細な表現態様も垂直材の前後幅及び本数を除き共通する。なお、前記のほか扉としての開閉方式等に関して差異がある。

これらの共通点及び差異点を意匠全体として観察すると、先ず、意匠に係る物品について、広辞苑によれば、門とは、前記のほか、物事の出入り、経由する所とあり、建物の外構えとしての門自体にも、表門、裏門、庭門等大別されるが、その様式にも豪壮なものから簡素なものまで種々の態様が認められ、現在はむしろ後者のものが一般的であり、最近の建築様式との調和が図られているのが実状で(株式会社小学館発行「大日本百科辞典 ジヤポニカ一七巻」参照)、これらに使用される扉自体には、各種出入口に使用される態様のものも認められる場合があるところ、必ずしも全ての門扉が物品として各種扉から特別独立して観念されるものともいえない。

そこで、これらの事実を前提に本件意匠について検討するに、その意匠に係る物品は門扉を指定したものであるが、その具体的態様からは、門柱等と関連した態様は顕著といえず門扉本体そのものといえ、その様式は、パンタグラフ機構を利用した伸縮可能な扉体で、Sweet's Catalog Service 発行の「Architectual Catalog File 1960 Section 22」(以下「引用カタログ」という。)で明らかなとおり、この種扉は、その機能的特徴を生かして、一般に、エレベータ、ガレージ、その他広く乗物、各種建築物等の出入口に使用されてきたもので、その使用箇所を限定しても、その扉としての実質的内容を変更するものとはいい難い。これらを勘案すれば、意匠に係る物品の使用箇所を明示特定しても、本件意匠の願書その他の記載内容全体から、その具体的範囲として、前記出入口に使用する扉と同種の範ちゆうに属すると認めるのが相当で、したがつて、両者の意匠に係る物品は類似する。

次に態様についてみると、両意匠の態様の外観上の主たる基調は、垂直材の角形棒状体を左右に配列し、その中央及び上下端付近においてパンタグラフ状の斜架材の交点を合わせて開閉自在に連結され、柵状とし、その全体にわたつて連続状菱形と横三角形状を要素とし、主に複合した縦長菱形状を表したところの基本的構成とその具体的態様等にあると認められる。

これに反し、垂直材を前後にわたり広幅としたかどうかの差異は、表面に対し奥行方向に表われ、この点前記の基調にそれほど影響を与えるものではなく、微弱なものであり、垂直材の数の差異は、開口部の広さに応じて適宜増減されるもので、垂直材の凹状部とともに指摘するほどのものではなく、更に、開閉方式に関する差異も、この種物品の方式として両者とも典型的なものといえ、本件意匠がこのことによつて表現される創作上の主目的である開いた態様における外観にほとんど特異性を誘発するものと認められず、そのため、この点によつても独自の特徴を有したものとなつているというべきものでもない。

以上のとおりであつて、両意匠を全体として観察すると、意匠に係る物品が類似し、その態様における差異点を圧してその類否を支配的に左右するものとは到底いえず、両意匠は非類似にするものとすることはできない。

4 よつて、本件意匠は、意匠法第三条第一項第三号の規定する意匠に該当するにかかわらず誤つて登録されたものであるから、その登録を無効とすべきものである。

三 審決の取消事由

1 審決は、本件意匠と引用意匠とが意匠に係る物品において類似するとしたが、審決の右判断は誤つている。

先ず、引用公報に示されている伸縮扉は、車両製造工場において貨車の一部として装着されるものであり、物理的に互換性があることは認めるけれども、それ自体が、新旧交換のため随時購入し得るよう準備されているというものではなく、独立して取引きの対象となるものではない。したがつて、引用公報に示された伸縮扉は意匠法上の物品ということはできず、本件意匠に係る物品の門扉と引用公報に示された、物品とは認識できない貨車用伸縮扉との間に、物品類似の関係があるとした審決は前提において誤つているものというべきである。

仮りに引用公報に示された伸縮扉が意匠法上の物品であるとしても、これが本件意匠に係る門扉と類似する物品であるとすることはできない。意匠法上の物品の類否については、一般に、比較さるべき二つの物品が用途及び機能を同じくするときに同一物品であり、用途が同じでも機能が異なる場合は類似物品であり、機能が同じでも用途が異なる場合は非類似物品であるとされている。本件意匠の門扉と引用意匠の伸縮扉とは、ともにパンタグラフ機構により扉体が伸縮して閉鎖、開放がなされるという点で機能的に類似する点があるにとどまり、次のとおり、両者は機能的にも相違するところがあるのみならず、用途にあつては全く相違するのであつて、これを類似する物品であるとは到底いえないものである。すなわち、引用意匠に係る伸縮扉は、貨車用補助扉であつて、貨車走行中に生じ得る荷崩れのため通常の引戸式扉が開扉できなくなるという事態を防止し、あるいはこれを無理にこじ開けて荷物が損傷することを防止し、または、生鮮食料品等を輸送する際外側扉を一部又は全部開扉して通風をよくする等の目的から設置装着されるものである。これに対し、本件意匠の伸縮扉は門扉として使用されるべきものである。パンタグラフ機構を利用したこのような伸縮門扉は、引用意匠の貨車用伸縮扉、更には引用カタログ所載のエレベータ等に用いる伸縮扉と異なり、扉体上縁にこれを懸吊案内するための案内軌条を設けることができないから、縦桟を前後に設けた間に斜架材を挟持する状態に枢軸支結合して、全体的に自立安定性を持たせ、上縁の案内軌条を設けることなく円滑な開閉ができるようにされているのである。このように本件意匠に係る門扉と引用意匠に係る貨車用伸縮扉との間には、機能的にも差異があるのみならず、用途においては全く異なつているのに、単にパンタグラフ機構により伸張・収縮して閉鎖・開放を行うという点における機能の同一性のみを強調して、設置される場所や目的の如何を問わず、両者を類似物品であるとするのは明らかに誤りである。審決は、本件意匠に係る門扉と引用意匠に係る貨車の荷崩れ防止用扉との間には用途上の著しい相違があるのに、引用カタログを援用することによつて、その間にエレベータ、ガレージ、その他広く乗物、各種建築物等の出入口に使用される伸縮扉を介在させ、もつて前記相違を緩和するとの誤つた論理操作をした結果、本件意匠と引用意匠との間に物品の類似性を肯認するとの誤つた結論に至つたものである。

2 審決は、本件意匠と引用意匠とはその態様において類似していると判断したが、審決の右判断は誤りである。

(一) 審決は、本件意匠と引用意匠とを対比するに当たり、両者の基本的共通点を専ら正面図について指摘した後、本件意匠にあつては垂直材を前後にわたり広幅としていることを認めつつも、この差異は表面に対し奥行方向に表われるものであつて、正面図から捉えられる基調にそれほど影響を与えるものではなく、微弱な差異として、開いた状態における外観にほとんど特異性を誘発するものではないとしている。しかしながら、このような審決の認定・判断は、本件意匠が立体的なものであることを看過し、正面図のみに拘泥した結果であり、全体の立体的形状の比較によつて類否判断をすべきことを怠つた失当なものである。

(二) 本件意匠の審美的特徴が門扉の伸張状態において発揮されるべきことに異論はないが、その審美的特徴は、正象投影図法による正面図においてのみ観察されるべきものではない。本件意匠の門扉にあつては、自立安定性を持たせるため、垂直材が前後に相当の間隔を置いて配置され、その間に相交叉する前後二本の斜架材が配置されており、しかも、これらの間にはそれぞれ相当の間隔が保持されている。したがつて、伸張された扉体に面して多少とも中央から左右にずれて観察した場合、正面図には表れない後方垂直材が前方垂直材と相並んで見えるのであつて、このように後方垂直材が見える状態における審美的効果を考慮してデザインされているものなのである。本件意匠の右のような立体感のある構成が、引用意匠の後述するような平板な扉体、すなわち垂直材が前後方向に一本しか配されていない扉体と全く異質の審美的効果を奏成することは明らかであり、両意匠をもつて類似するといえないことは明らかである。

(三) 引用意匠の伸縮扉は、本件意匠におけるような立体的構成をとつているものではなく、引用カタログに示されたエレベータ用扉体等と同様に平板なものと理解すべきものである。もとより引用意匠の伸縮扉も、荷崩れ防止用扉体である以上、垂直材、斜架材ともにこれにかかる荷重を支承担持できる程度に太くすべきであり、したがつて、扉体の厚さもこれに相応して相当厚くなることは当然であるが、本件意匠との対比において問題とすべきことは、垂直材が前後に対をなして二本宛配置されているか否かという点である。しかして、この点において、審決が、引用公報中の「後方の縦枠」なる記載を根拠に、引用意匠の伸縮扉においても垂直材(縦枠)は各配置された部位で前後にやや幅をもたせるように二本宛配されていると認定したのは誤りである。

引用公報には、その伸縮扉において垂直材が前後に二本宛対をなしていることを示す記述、図示はなんら存しない。引用意匠の伸縮扉は、その上縁に吊滑車(7・8)が装着されていてチヤンネル軌条(10・11)に沿つて摺動するものであるから自立安定性を持たせる必要はなく、また、通常の扉体(2)の内側に配置されるものであつて、少しでも積載容積を大きくしたい貨車にあつて、敢えて垂直材を二本一対として前後に配するはずもない。現に引用公報の図示するところによれば、垂直材部分における拡大断面図(第二、第三図)にも二本の垂直材など表されていないのである。結局、引用意匠の伸縮扉は、横一列に垂直材を配した後側に斜架材を組み合わせただけのものであつて、前後二本宛対をなして垂直材を配置した本件意匠の立体的構成とは全く異なるというべきである。なお、引用公報中の「後方の縦枠」なる表現は、「伸縮扉3、4後方の縦枠一端をそれぞれ扉収容室A、Bに固着し……」なる記載に照らし、扉体の奥行方向における向う側ではなく、伸縮方向における左右両端をもつて「後方」と表現したことが明らかであるから、なんら審決の認定を裏付けるに足るものではない。

被告は、引用公報からは二本一対の垂直材の存在を否定できない旨主張するが、引用意匠において二本一対の垂直材の存在が明確に積極的に肯定できない以上、審決の引用意匠の認定には本件意匠との類否の判断に影響を及ぼす重大な誤認があることになんら変わりはなく、審決は違法として取消しを免れないものである。

(四) 以上のとおり、引用意匠においても前後二本宛の対をなす垂直材があるとした審決の認定は誤つているのみならず、正面図において表れる共通性を重視するあまり全体的な立体形状の差異を看過して本件意匠と引用意匠とが類似するとした審決の結論も誤つているというべきである。

3 よつて、審決は違法であるので、その取消しを求める。

第三 請求の原因に対する被告の認否及び反論

一 請求の原因一及び二の事実は認める。

二 同三の主張は争う。審決にはこれを取り消すべきなんらの理由もない。

1 物品の類似性について

原告は、先ず、引用公報に示された貨車用伸縮扉は意匠法上の物品に該当しない旨主張するが、これは誤つている。そもそも、意匠法上の物品とは、通常の状態で独立して販売される有体物たる動産であれば足り、部分品であれば更に互換性を有することが要件とされるものであるが、引用公報記載の伸縮扉は、原告も自認するとおり物理的に互換性を有するものであつて、これ自体独立して販売し得る性質のものであるから、これを意匠法上の物品というのになんの妨げもない。原告の主張は、要するに、現実に引用公報記載の如き伸縮扉体が市場において独立して販売されていないことを根拠とするものであるが、そのような事情は、該物品の市場での必要性、経済性等によるものであつて、これを意匠法上の物品に該当するか否かの判定基準に加味すること自体失当というべきである。加えて、審決は引用公報を公知資料として引用したものであり、そこに示された伸縮扉が意匠登録の対象となる物品であるか否かは、そもそも問題とする余地もないというべきである。

原告は、次に、引用意匠に係る貨車用伸縮扉と本件意匠に係る門扉とは非類似物品である旨主張するが、これも誤つている。そもそも、類似物品とは、機能に差異があつても用途が同じもの、もしくは、機能は同じでも用途に差のあるものをいうのであつて、本件意匠に係る門扉と引用意匠に係る伸縮扉とは、原告も自認するとおりパンタグラフ機構によつて伸縮するとの機能を同じくするばかりか、出入口に使用する点でも共通性を有するものであつて、両者が類似物品の関係にあることは明らかである。審決は、本件意匠と引用意匠の伸縮扉について、前者は家の外構えに設けた出入口に、後者は貨車の出入口に使用される点で差異があることを認めたうえで、引用カタログにも言及しつつ用途ないし使用箇所について具体的に検討した結果、結局において両者は同種の範ちゆうに属するとの正当な結論を導き出したものであつて、審決が用途の差異を無視しているとか、引用カタログを介在させることによつて用途上の著しい差異を緩和している等と論難するのは失当である。なお、原告は、本件意匠の門扉をもつて上方に案内軌条を設けることができないものであることを前提として引用意匠の伸縮扉との対比を行い、両者が非類似物品である旨の結論を導いているが、右の前提自体失当というべきである。本件意匠の門扉は、審決も指摘するとおり、門柱本体等と関連した態様は顕著といえず門扉本体そのものということができ、これをどのような態様で使用するかはなんら問うところではなく、鴨居や吊戸車等の上方案内軌条を設けて門扉本体を使用することは周知のことだからである。

2 意匠の態様の類似性について

(一) 原告は、審決が本件意匠と引用意匠とを正面図についてのみ対比し、奥行方向の差異を看過している旨主張するが、審決は奥行方向の差異を無視したものではなく、その差異をもつて微弱なものと正当に判断したものである。本件意匠と引用意匠とは、審決指摘の基本的構成と具体的態様において共通しており、正面部分が看者の注意を最もひく要部であつて、両者の比較対比においても、該部分が重要であり、原告の主張は、両者の極めて細部にわたる差異をあげつらうものにすぎない。一般に需要者がパンタグラフ機構を利用した伸縮可能な扉体を観察する場合、そのデザインを認識するのはあくまで扉体を真正面からみたものによるのであつて、角度をずらせて観察した場合には、後方の垂直材、斜架材が見えることが障害となり、製作者の意図した正面のデザインが正確に把握できなくなる。したがつて、パンタグラフ機構を利用した伸縮可能な扉体に係る意匠については、正面を構成している意匠が全体観察において非常に大きな比重をもつており、これが非常に類似していれば、全体として類似する意匠であつて、そのように判断した審決の認定になんら誤りはない。加えて、パンタグラフ機構を利用した伸縮可能な扉体は、その機能的な特徴を生かして、一般にエレベータ、ガレージ、その他広く乗物、各種建築物等の出入口に使用されてきたものであり、普遍的なものとなつていたのであつて、本件意匠の基本的構成と具体的態様が引用意匠のそれと類似している以上、本件意匠では自立し得る程度に前後の幅を広くしたからといつて、この程度の差異は引用意匠の部分的改変にすぎず、看者の注意をひく要部に著しい改変があつたものとは到底いえないところである。

(二) 本件意匠について、原告は、その審美的特徴が後方垂直材の見える立体感のある構成に存する旨主張するが、右主張は独善的見解に基づくものであつて採るを得ない。そもそも意匠登録出願に当たつては、図面によつて意匠を表わすことが原則であり、写真によつて意匠を表わすのはあくまでも図面の代用である。本件意匠の登録出願にあつては、当初は図面をもつて意匠を表示していたものを図面代用写真をもつて表わすように補正がなされたうえで登録に至つたものであるが、写真では立体感が表わされるとしてもそれは写真が具有する特性であるにすぎず、意匠を判断するに当たつては、あくまで当初の図面に示されていた如く、平板的な正面図によることが必要なのである。原告の主張は写真の特性を意匠の審美的効果に含ませようとするものであつて、失当というほかない。

原告は、また、本件意匠の門扉が自立安定性を有する旨主張するが、本件意匠はあくまでも門扉本体そのものに係る意匠であつて、車輪、キヤスター等を備えて自立して用いられるものか、あるいは吊滑車により吊り下げて用いられるものか、もしくは他の方法で用いられるものかは、本件意匠の態様からは知るに由ないものである。更に、前後二本の垂直材の間隔を大きくとることが自立安定性を与えるのに不可欠の要件ということもできない。

(三) 引用意匠について、原告は、それが前後二本の垂直材を備えていない平板な扉体である旨主張するが、これもまた全く理由がない主張である。

引用意匠に係る伸縮扉は、引用公報の第二図に示されているとおり、前後方向に十分の厚みを有するものであり、また、それは荷崩れを防止するものであるから、機能性ないし装飾性を優先して考えられ、かつ、平板であつてもよいエレベータ用扉体等と異なり、強度上の観点からも、ある程度の厚みを有する垂直材、斜架材をもつて構成された前後に幅を有するものでなければならないのである。

しかも、引用意匠にあつては後方垂直材がないとする原告の主張は全く根拠がないものである。引用公報の第二図、第三図には確かに二本の垂直材が図示されてはいないけれども、他方、同図には斜架材も図示されていないのであつて、右図をもつて二本一対の垂直材の存在を否定することはできないのである。一般に前後に二本一組の垂直材を配してなる伸縮扉において、端部に奥行のある一本の垂直材を用いることは普遍化されているのであつて(引用カタログ中にもかかる伸縮扉の例が示されているほか、甲第一二号証の一参照)、その場合には、先行端の垂直材の位置における縦断面図には斜架材はもとより二本の垂直材などが表れることはないのである。引用意匠の伸縮扉も、右のような普遍化された伸縮扉の形状に照らしてみれば、前後に二本一組の垂直材を配しているものと解するのが妥当である。

仮に、引用意匠においては原告主張のように垂直材が一本であると認められるにしても、引用意匠と本件意匠は前記(一)のとおり基本的形状において極めて類似しているものであり、垂直材が一本か二本かの差異も含めて両者の相違点は微弱な差異にとどまるものというべく、全体として類似する意匠であることにかわりはない。原告が、垂直材が一本か二本かによつて両者の類否を決しようとする態度こそ失当というべきである。

3 以上のとおりであるから、本件意匠は引用意匠に類似するとした審決になんら違法の点はなく、原告の請求は理由がない。

〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。

別紙図面(一) 本件意匠

<省略>

別紙図面(二) 引用意匠

<省略>

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